今日の海は、穏やかそのものだった。防波堤は勿論のこと、小島の鳥居もその向こうの山々の稜線もくっきりと見えた。ただ、その中にあって風力発電の林立は人間のエゴのように思えた。
合浦警察署に戻った清一は、書類の整理を済ませると独身寮へ向かった。独身寮は木造二階建てで、清一の部屋は一階部分の奥にあった。
食堂で夕飯を済ませ部屋の中に入ると、着信音が鳴った。電話はゆいからで、義兄から荷物が届いているということだった。そろそろ来るかもしれないと思っていた清一だったが、いざ特命が始まるとなると身の引き締まる思いがした。
義兄の一幸(かずゆき)は警視庁の幹部だ。清一が十和田西警察署に左遷されてから未解決事件や難事件の捜査を秘密裏に依頼するようになった。義兄からの荷物には、調査依頼の手紙が入っているのが常だった。
その夜、清一はよく眠れなかった。
流れ弾で肩を負傷した世田谷殺人事件、飛行機から二度も落下した八王子事件を反芻(はんすう)した。海中で死のゲームをしたブレード殺人事件、散々に殴打された古物商殺人事件、そして、死の決闘までしてしまった長根殺人事件を思い出していた。
それらは、清一が事件解決のために奮闘した一コマだったが、いずれも一つ間違えれば帰らぬ人になった危険な捜査だった。
今まで、清一が弱腰になって事件から逃避するということは、一度もなかった。それは、誰かが愚直に悪に対峙しなければ社会の安定などないと考えたからだった。
翌日の夕方、清一が頃合いを見計らってむつ市へ出かけようとしていると、浜道がやってきた。玉田に会った時、くれぐれも慎重にと申し合わせていたはずだった。けれども、浜道を見ていると、玉田から言われたことなど忘れてしまっているようだった。そこで清一は、
「また、事件?」
と、切り出してみた。
「今度は収賄(しゅうわい)のようで、二課と合同捜査になるみたいです」
浜道が、周囲に注意を払って声を落とした。
「大利家戸さんも注意をしておいた方がいいですよ」
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