【前回の記事を読む】舞台の主役が本番中に自殺を図るなどありえない…「ここからは真の推理を披露しましょう」探偵が事件当日に気付いた“異変”とは

ダウト2――シェイクスピアを疑え

「何ですか? 奇妙なことって」

尾崎が訊ねた。

「吐血ですよ。青酸カリは正式名称はシアン化カリウムといって、内服すると胃酸の働きでシアン化水素が発生し、呼吸によって肺から血液に吸収され、臓器が低酸素によって壊死することにより死に至ります。初期症状は頭痛、めまい、頻呼吸、頻脈で、重症化すると意識障害、昏睡、痙攣、心肺停止となります。

だが吐血という症状は出現しない。作用機序から考えても起こりにくい症状です。

烈斗君に持病はなかった。彼は細かいことは気にしないおおらかな性格だったということですからストレスによる急性胃粘膜病変は考えにくい。

では何故彼は吐血したのでしょう。彼の性格が私にヒントを与えてくれました。

彼は非常にいたずら好きな青年だった。監督にも事前にカーテンコールの時にサプライズをしたいと相談していた。

そしてあの日は街ではハロウィンが行われていた」

「ま、まさか……」

高井良が唸った。

「やっと気づいたかね。そう、彼はおそらく緞帳が下りた後、血糊カプセルを口に入れ、噛み潰し、吐血したように見せかけたのだ。

幕が上がっても毒死したハムレットのように本当に死んでしまったかのような演技をするつもりだったのだ。

そして、役者仲間や観客が騒ぎ出したところでいきなり跳び起きてゾンビのように誰かに襲いかかる――そういうサプライズを計画していたのではないかと思う。ハロウィンの夜にわざわざ公演を観に来てくれたお客さんへの彼なりの謝意のつもりだったのだろう。

まさかそのまま本当に死んでしまうとは夢にも思わなかっただろうがね」

「じゃあ、そのカプセルの中に青酸カリが……」