【前回の記事を読む】寝耳に水が入れば誰でも飛び起きる…ではなぜ『ハムレット』の王は騒がなかった? “耳に毒を注ぐ”という違和感から、王殺しの前提が崩れ…

ダウト2――シェイクスピアを疑え

「ホレイショーだよ」

「えっ、彼はハムレットの唯一の親友じゃないんですか? ハムレットは彼だけには全て真実を打ち明けていたはず」

「だからこそ彼を騙すのに打ってつけの人物だったわけだ。そもそもあの亡霊を『ハムレット王に間違いない』と最初に断言したのはホレイショーだった。

レアティーズに毒剣の入れ知恵をしたのもおそらく彼に違いない。だが、何と言ってもクローディアス王を殺した後のハムレットとの会話、これが重要だ。ホレイショーは焦っていた。

ハムレットは毒剣によって傷を負っていたが、傷が浅かったためか、他の人物達よりも随分毒の巡りが遅かった。だからその時も実に饒舌だった。この分ではハムレットは毒から回復し、命を取り留めるかもしれない。

焦ったホレイショーは賭けに出た。自分が毒杯を呷って死のうとして見せたのだ。結果は彼の思い通りになった。ハムレットは無理矢理彼から杯を奪い取り、自らそれを飲んで空にした。

彼が死んだのはその直後だ。毒剣によってというよりはホレイショーに殺されたようなものだ。

そして王族が死に絶えた後、やってきたフォーティンブラスにホレイショーが言った台詞をもう一度見直してみるといい。情欲、殺戮、陰謀、惨劇、災厄。

一つとしてハムレットを称える言葉はない。特筆すべきは最後にフォーティンブラスが王位継承するにあたっての助言までしたことだ」

「でも、ホレイショーは何でそんなことを?」

「どうせフォーティンブラスが王位を継承した暁には国務大臣にでもご推挙願ったのだろう。親友面して心の中は北極よりも厳しい氷原だったのだ。

幼い頃から常に玲瓏な王子に激しく嫉妬し、自らの能力に見合わない地位の低さを恨めしく思っていたのだろうな」

「なるほど……って、それ全部天蓋さんの妄想ですよね。僕は信じませんよ。でも、この事件を解く鍵なら僕にも分かりましたよ」

「ほう、それは結構。では尾崎君、1週間後、舞台の関係者を全員この劇場に集めたまえ。そこで犯人を逮捕しようじゃないか」

「えっ、1週間後に犯人を逮捕できるってどうして分かるんですか?」

「犯人ならもう分かっている。後は証拠だけだ」

天蓋はにやりと笑った。