「まだ気づかないのかね。だから君は刑事に向かないと言うんだよ。『最大の利益者仮説』というのを知っているだろう。
ある事件が起きた時に、その結果によって最も利益を受けた人間が犯人の可能性が高いという仮説だ。
この『ハムレット』の結果はどうだ。ポローニアス、オフィーリア、ガートルード、レアティーズ、クローディアス、ハムレットと次々とデンマーク王室の主要人物がお互いを疑い、憎み、殺し合った結果遂には全滅してしまった。そこへ華々しく登場したのは誰だ。
累々と重なるデンマーク王族の遺体を眼下にして鼻歌でも歌うかのように意気揚々と祝砲を上げながら凱旋し、デンマークの領土と財産を根こそぎ掠め取り、密かにほくそ笑んでいたのは誰だ」
「まさか、フォーティンブラス!」
「やっと分かったかね。シェイクスピアは劇の冒頭でフォーティンブラスは血気にはやる乱暴者で、父のノルウェイ王を殺したデンマークを心底憎んでおり、奪われた領土を取り返すために良からぬ陰謀を企てているとちゃんと書いているのだ。それが劇の終盤ではまるで悪意のない善人にすり替わっている。
つまりシェイクスピアは観客を試しているのだ。観客が善人に成りすました悪人の正体を見抜けるかどうかを」
「それ、本当ですか?」
「間違いない。ハムレット王は本当に突然死だった。しかし、それがあまりにも急だったので王室内でも『あれはクローディアスによる毒殺だったに違いない』という根も葉もない噂が広まっていたに違いない。
王室内にスパイを送り込んでいたフォーティンブラスはそれを知り、この噂を有効に活用しようとした。王の亡霊を演じる役者を雇って王宮に送り込み、いささかノイローゼ気味のハムレットに父はクローディアスに毒殺されたと信じ込ませ、クローディアスとガートルードに対する復讐を誓わせた。
彼らは無実であったが、ハムレットが発狂したふりをしたため、国外追放せざるを得なかったが、彼はすぐに戻ってきた。命の危機を感じたクローディアスはハムレットの暗殺もやむを得ずと決断し、それによってあの悲劇が起きて王室が壊滅するに至ったのだ。全てフォーティンブラスの計略通りの筋書きになった。
ただし、フォーティンブラスだけで他国の王室にこれだけの謀略を遂行できるはずはない。王宮内に彼のスパイ、協力者がいた。彼なくしてはこの陰謀も頓挫していたに違いない」
「それは誰ですか?」
次回更新は10月8日(木)、21時の予定です。
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