【前回の記事を読む】被害者の遺体から青酸カリ…しかし使用済みのペットボトルや小道具、関係者の所持品からは一切出ない。しかも開演前の摂取もありえず…

ダウト2――シェイクスピアを疑え

「これで分かっただろう。どんなによく眠っていたとしても、いきなり耳の孔に水を入れられると誰でもすぐに跳び起きる。

ヘボナが即効性の猛毒だったからそれも叶わなかったということになっているが、現代の猛毒VXガスでさえ、金正男暗殺事件でも明らかなように効果発現までに一定時間がかかる。まして中世のヨーロッパでそこまで強力な猛毒を精製できたとは思われない。

少なくともハムレット王は跳び起きて、大声を上げて衛兵を呼ぶくらいの時間はあったはずだ。そしてクローディアスを暗殺者として処刑することができた。ところが実際はそのような騒ぎは起きていない。

つまり、ハムレット王はクローディアスが主張した通り病死だったのだ。おそらく致死的不整脈か、脳卒中か」

「魔法の毒とかそういうことじゃないですか。そもそも作り話だし」

「それならば『魔法の毒ヘボナ』と断っておけばよいが、そのような記述もない。

そもそもそんなに一瞬で毒殺したいのなら通常通り飲み物や食べ物に混ぜて口から摂らせるのが一番吸収がよくて確実だ。それが一番怪しまれずに済むしな。

それをわざわざクローディアス自身が近づいてかなり毒の吸収が悪いであろう耳孔に注ぐなど毒殺手段としては荒唐無稽にも程がある。

シェイクスピアがこの記述をしたのはまさに『ハムレット』をミステリー作品として読む場合のヒントとするためなのだ。つまり、クローディアスは冤罪を着せられたのだと」

「だとしたら何故亡霊はそんな嘘を?」

「亡霊など存在しない。あれはおそらく金で雇われた役者だろう。亡霊は暗闇で鎧兜を身に着けていたのだから顔などはっきり見えたはずはないし、衛兵達も甲冑が王のと同じだからという理由で亡霊をハムレット王と判断している。

しかも彼らは恐れ戦くばかりで亡霊に手を触れようとする者などいなかった。亡霊が目の前に現れた時、ハムレットは既に幾分気が触れていたと思われる。だからそれが敵の罠とも気づかず、父親の亡霊と信じ込んでしまったわけだ。

そして、まんまとクローディアス王と自分の母を裏切り者で父の仇と信じ込み、彼らに復讐を誓うことになったわけだ」

「じゃあ、その亡霊を雇った奴が黒幕ということですね。でも誰が何のために」