妊娠7か月になった頃、千春のお腹はずいぶん大きくなっていて、体調も安定しているように見えた。

夜、2人でソファに並んで座っているとき、千春が渉の手をとって自分のお腹に当てた。

「動いた気がするんだけど、わかる?」

渉はお腹に手を当てたまま、じっとしていた。しばらくして、はっきりとした動きを感じた。

「……動いた」

「わかった?」と千春が嬉しそうに言った。

「わかったよ」

「今日、すごく元気に動いてたんだよ。絶対元気な子だよ」

「名前、もう決めた?」

「…実はね、もう決めてるの」

「どんなの?」

「うーん、まだ内緒…。産まれてからのサプライズにしようと思ってる」

産まれてから、という言葉が妙に響いた。

渉はこれから始まる家族3人の生活が楽しみで、浮足立つ気持ちを抑えられなかった。千春がその時、どんな顔をしていたのかは見ていなかった。

渉は千春のお腹に、そっと額を当てた。千春が渉の頭を、やさしく撫でた。

しばらくそうしていると、千春の手がぴたりと止まった。そして、迷いを振り払ったような、凛とした千春の声が通った。

「ねえ、渉」

「うん」

「生まれたら、3人で写真撮ろうね」

「撮ろう」

「どこかに飾りたいな。玄関がいいかな、リビングがいいかな」

「リビングじゃないかな」

「そうだね。毎日見られるし」

千春はそう言いながら、自分のお腹をそっと撫でた。そうして、いつもどおり柔らかく笑う千春の横顔を見て、渉は思った。

(早く会いたいな)

*

出産予定日は、12月の初めだった。

検診のたびに、数値は安定していた。担当医からも「順調ですよ」と言われていた。出産は帝王切開で行うこと、循環器チームも立ち会うことが決まっていた。万全の体制だった。

11月の終わりになると、千春のお腹がさらに大きくなってきた。

「大きくなったな」と渉が言うと、「重いんだよ」と千春が笑った。「早く会いたい」と言いながら、お腹を撫でていた。

予定日の3日前の夜、千春が「なんか変な感じがする」と言った。渉はすぐに病院に電話した。「陣痛が始まっているかもしれません、来てください」と言われた。

渉は千春の荷物を手早くまとめた。千春が「そんなに焦らなくていいよ」と笑った。「焦ってない」と渉は言ったが、手が少し震えていた。

病院に着くと、産婦人科医と循環器内科医の両方が待っていた。千春が手術室に入る前に、渉の方を振り返って言った。