【前回の記事を読む】白髪の老人の遺体が、別人として火葬される寸前だった。鑑識記録は正しいのに、捜査本部へ上がった写真だけが別人の顔にすげかえられていて…
ダウト1――銃殺を疑え
「何故この動画を……」
「捜査用車につけられていたドライブレコーダーの記録は削除したはずなのに、と言いたいのかな。もちろんこれはドライブレコーダーの動画ではない。私が独自に仕込んでおいた隠しカメラと盗聴器の記録だ」
「何ですって?」
高井良が素っ頓狂な声を上げた。
「何故、その車に事前にカメラを仕込んだんです?」
「もちろんこの車だけではない。警視庁が保有している車両のほとんどに私はカメラを仕込んでいる。ドライブレコーダーのデータは車に搭乗した人物によってこのように容易に削除されてしまうからね。
もちろん警視庁内のありとあらゆる場所にも隠しカメラと盗聴器を仕込んでいる。2番目の動画は庁内で録画されたものだ」
「く、狂ってる。この人、完全に狂ってる……」
高井良は開いた口が塞がらなかった。
「これでもやっていないと言うのかね。それとも動画の続きを見せようか? 辻君」
辻はその場に崩れ落ちた。川崎の2人の部下が辻の両腕を取り、立ち上がらせた。川崎が彼に向かい合った。
「辻君、実は今日私がここに来たのは君に収賄の容疑がかけられているからなのですよ。山本学という男から私に直接タレコミがありましてね。
組織を守るためには不正の疑いがある警察官を放置しておくわけにはいかないのでね。本庁の方で詳しく話を聞かせてもらいましょうか」
項垂れる辻を2人の男が連行していく。天蓋の横を通り過ぎていく時、辻の足が止まった。
「木曽、俺はお前が一課にいた時から大嫌いだった。いつかこんなことになるんじゃないかと思ってな」
「そうかね。告白というのは通常『好き』を伝えるものだが、『嫌い』を伝える告白も悪くないものだね。こういう場合」
天蓋はそううそぶいた。辻が連行されると、天蓋の目の前に川崎がやってきた。
「いつもながらお見事な推理ですね、木曽君。でも、庁内や車両に隠しカメラや盗聴器を仕込むのは頂けませんね。一体何のためにそんなことをしているのですか?」
「もちろん警視庁内に潜むゴキブリを駆除するためです。辻君はそのうちの一匹に過ぎない。家の中にゴキブリを一匹見つけたら他にも数十匹いる可能性があるらしいですからね。特に大きいのが潜んでいるかもしれません」
ははははははと2人は同時に笑ったが、すぐに真顔に戻った。
「カメラと盗聴器はすぐに撤去しなさい」
「それではゴキブリを駆除できません」
「それではこちらで撤去させてもらいます」
「それはご自由に。また別の場所に仕込みますから」
天蓋の不遜な態度にしかめ面をしながら川崎は去って行った。