【前回の記事を読む】夫が亡くなって1週間も経たない彼女の買い物袋に、長ネギ、牛肉、しらたき、ビール6缶。しかし彼女は全く酒が飲めない…

ダウト1――銃殺を疑え

「でも、その後鑑識の目をどうやってごまかしたんですか?」

「別にごまかしてなどいない。鑑識官と監察医はそれぞれの仕事を全うしている。これがその証拠だ」

天蓋が書類を取り出し、高井良に渡した。現場と解剖記録の写真に写っていたのは双方とも白髪の老人の姿だった。

「これは……」

「鑑識課も監察医務院も白髪の老人の死体に関して正確に記録して保存していたよ。

鑑識は運転免許証の写真と本人が異なる人物であることに疑問を持っていた。それに前頭部や大腿骨等多発外傷の所見があったことにも気づいていた。

解剖記録でも車の衝突によって生じる前頭骨、肋骨、大腿骨等の多発骨折と脳挫傷の所見もあったが、彼がどこで事故に遭ったのか、何故そのうえ銃撃されたのかを調べるのは彼らの仕事ではない。

彼らの仕事はその報告書を捜査本部に上げることだけだ。それを真っ先に見たのは辻君だろう。

そして報告書を改竄・捏造した。射創以外の所見を削除し、強行犯第3係で画像処理に詳しい秋山巡査部長に命じ、最初に撮っておいた山本の写真に射創や血痕を合成し、解剖写真は頭部だけ山本とすり替えた。

こうすれば鑑識や監察医務院の記録と矛盾があっても問題ない。事件を捜査するのは鑑識ではなく、捜査一課だからね。

もちろん私は監察医務院に安置されている後藤さんのご遺体もこの眼で確認してきた。

危ないところだったよ。もう少しで麻衣の元に送り出されるところだったからね。

親類からも見放されている山本の葬儀には誰も来ないだろうから、麻衣さえ黙っていれば、辻君の目論見通り後藤さんの遺体は火葬され、永久に闇に葬られるところだったのだから」

秋山が不安そうに辻の方を見遣ったが、辻は天蓋を睨みつけたまま眼を離さなかった。

「それから後は高井良君の想像通りさ。

銃弾がないことを君に指摘された辻君は辻褄を合わせるために、山本の知人だった藤井を追いかけ、密かに手に入れた自動拳銃でトカレフ弾を地面に向けて発射し、薬莢と共に回収し、翌朝公園で見つかったことにしたんだ。

さすがに薬莢を現場に落とすことはしなかった。鑑識がそんな物見落とすはずがないからね。自分が所持していた・38スペシャル弾が1発少なかったのもこれで辻褄を合わせることができたわけだ。

それに車の方も自費で修理に出した。こちらも証拠があるよ。

だが辻君は重大なミスを犯した。山本が妻の麻衣と別れ難くてフィリピンへの密航を先送りにして自宅に引き籠っていたことに気づかなかったことだ。どうかね、私の推理は?」

「ふん」

辻は鼻で嗤った。

「ふははははははは、それで? それで俺を捕まえようと言うのか?

もし、こんなことが公になったらもう俺だけの問題じゃない。警視庁全体の信頼に関わる大問題だ。誰が責任を取るって言うんだ?

上はそんなことは望んでいない。署長さんには悪いが、この事件はこちらで処理する。メディアの方は何とでも抑えられるからな」

「ひ、卑怯だぞ!」

高井良が叫んだ。

「黙れ小僧! 前にも言ったろ。警察っていうのはな、組織だ。個人では何もできない。組織を守ることが何よりも重要なんだ」