「この紫色、めっちゃキレイし、なんか作り物みたいですよね」

彼女の話す言葉はイントネーションからして明らかに大阪のものだったが、その中でも特に『キレイし』という言い回しが中岡の耳に引っ掛かった。

大阪の人間の中には、標準語でいうところの『綺麗だし』を『キレイし』という者がいる。これは大阪に来た当初、彼が驚いたことの一つだった。それにしても、この女性が「キレイ」と言うと、いつも以上に「キレイ」はキレイく中岡の心に響いた。

「ほんとですね」中岡は彼女の方に身体の向きを変えた。「それ、何なんですか」

「ふふ」彼女は眩しすぎるほどの笑顔で微笑んだ。中岡は血圧が急上昇するのを感じた。「ドーナッツです」

「いや……、それは見れば分かります」中岡は彼女の目の前にある皿に乗っかっているものを見た。さすがの中岡も、ドーナッツぐらいは知っている。

「なーんてね。冗談ですよ。タロイモです」

「タロイモ?」法学部卒の中岡も、さすがにタロイモは知らなかった。「タロイモって、何でしたっけ」

「あたしも詳しくは知らないんです」彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。あまりのかわいさに中岡は胸が苦しくなった。「サトイモ科やから、サトイモの仲間なんと違います? ポイって知ってます?」

「恋っ!」中岡はドキッとして訊き返した。

「違います違います」彼女はおかしそうに声を出して笑った。「ポイです、ポイ!」

「ああ、すみません……。ほんとに聞き違いました。ポイ、知りません」

「ハワイで食べられてる主食の一つなんですよ。ポイって、タロイモから作られるんですけど、これが紫色っていうか、ちょっと変わった色をしてるんです。それを生地に練り込んで作られてるんですよ、このドーナッツ」

そう言って彼女は、皿に乗ったドーナッツを中岡の前に差し出してきた。

二人の席は一メートルぐらいしか離れていなかったので、中岡が彼女の方に身体の向きを変えた時点で、二人は彼女の使っていたテーブルで向かい合っているような格好になっていた。しかし、彼女が身を乗り出してドーナッツを差し出してきたことにより、その距離はさらに縮まった。彼はもう胸の高鳴りが止まらなかった。

 

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