【前回の記事を読む】気になっている職場の年上女性から「最近、表情が柔らかくなったね。なんかあったの?」と聞かれ…「あなたといるから」なんて言えなかった

3.

花見の翌日から、渉の中で何かが変わった。

変わった、というより、蓋をしていたものが少しずつ開き始めた、という感覚だった。千春のことを考える時間が増えた。仕込みをしながら、串を焼きながら、2階の部屋で天井を見ながら。気づくと千春のことを考えていた。

(好きなんだろうな)

認めるのに、それほど時間はかからなかった。でも認めた後が問題だった。

渉には自信がなかった。人を好きになる資格が、自分にあるのかどうか、わからなかった。失ってばかりの自分が、誰かを幸せにできるなんて思えなかった。

(やめておいた方がいい)

何度もそう思った。

でも、武蔵に千春が来るたびに、渉は千春を目で追っていた。千春が笑うたびに、渉の胸の中で何かが動いた。千春が他の男性客と楽しそうに話しているのを見ると、説明のつかない感情が湧いた。

ある夜、常連の男性客が千春に「お姉さん、連絡先教えてよ」と言った。千春は「ごめんなさい、そういうのはちょっと」と笑いながら断った。渉はカウンターの中で串を焼きながら、その様子を横目で見ていた。

(よかった)

そう思った自分に気づいて、渉は苦笑した。

*