「来た来た」と千春は手を振った。「1人でお花見するのも悪くないと思ってたんだけど、やっぱり誰かいた方がいいよね」
渉はシートの端に座った。千春からビールを受け取った。
「乾杯」と千春が言った。
「乾杯」と渉が答えた。
缶をかちんと合わせた。桜の花びらが、ゆっくりと2人の上に落ちてきた。
渉はビールを飲みながら、桜を見上げた。こんなふうに、誰かと花見をしたことがあっただろうか。記憶になかった。
「きれいだね」と千春が言った。
「……はい」
「渉くんって、こういうの好き?」
「……わからないです。あまり、こういう経験がなくて」
千春は渉を見た。
「そっか」
それだけだった。余計なことを言わなかった。ただ、また桜を見上げた。
2人で並んで、桜を見ていた。風が吹くたびに、花びらが舞った。
渉はその時はじめて、この気持ちに嘘はつけないんだ、と悟った。
(この人のそばにいたい)
次回更新は9月27日(日)、22時の予定です。
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