(この人と一緒にいると、楽だ)
そう気づいたのは、それから少し経った頃だった。楽、というのが正確かどうかわからなかった。でも、千春のそばにいると、何かを取り繕わなくていい気がした。無理に笑わなくていい気がした。
渉の人生で、そういう人間はほとんどいなかった。
「中村くん、休みの日って何してるの」
「寝てます」
「それだけ?」
「……だいたい」
千春は笑った。
「じゃあ今度、一緒にご飯でも行こうよ。近くに美味しいラーメン屋があってさ」
渉は少し間を置いた。
断る理由は特になかったが、誰かと2人でどこかに行くということが、これまであまりなかったから答えあぐねていた。
だが頭で答えを出すより先に、気持ちが口をついて出ていた。
「……行きます」
「やった」
千春は屈託なく笑った。その笑顔が、渉にはどこか眩しかった。
そしてそのまま、2人のシフトが被っている日を確認して、流れるように一緒にご飯に行く予定が立った。
渉はその夜、2階の自分の部屋に戻って、窓の外を見た。小さな公園に、街灯が1つ灯っていた。
(久しぶりに、誰かと飯を食いに行く)
それだけのことが、渉にはずいぶん遠いことのように感じられた。
次回更新は9月25日(金)、22時の予定です。
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