その夜、渉は精神科のクリニックに、初めて電話をかけた。
「初診の予約をしたいんですが」
「お名前と症状を教えてください」
症状、と聞かれて、渉は何を言っていいかわからなかった。
「……眠れません。食べられません。ベランダに、立つのが、怖いです」
電話の向こうの女性は、少し沈黙してから、優しい声で言った。
「明日、来られますか」
翌日、クリニックの待合室で、渉は問診票を書いた。「現在の心配事」の欄に、「死にたい気持ちが、たまに出ます」と書いた。書いて、ペンを置いた。書けた、ということに、自分でも驚いた。
医師は40代くらいの女性だった。渉の話を、最後まで遮らずに聞いてくれた。
「中村さん、よく、ここまで1人で来てくださいました」
最初の一言が、それだった。渉は涙が出そうになった。ありがとう、ではなく、よく来た、と言ってもらえることが、こんなに胸に響くなんて知らなかった。
処方された薬を飲むようになって、夜は少し眠れるようになった。それでも、現実は変わらなかった。お金は減り続けていた。
次回更新は9月21日(月)、22時の予定です。
【イチオシ記事】「昨日、あなたの彼氏さんとホテルにお泊りしました」と言って、服を脱ぎ始めた女…「ほら」と体についた証拠を見せられ…
【注目記事】「今日だけ、お願い」——僕には妻がいたが、彼女のことを無我夢中で抱いた。キスをし、胸を吸い…
ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp