【前回の記事を読む】セラピストを辞めて半年。昼休憩中、スマホを見て血の気が引いた。【拡散希望・被害報告】と、僕のフルネームと写真付きの投稿が…
2.
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翌日、渉は警察に電話した。以前、ストーカー警告を出してもらった担当者につないでもらった。
「SNSへの虚偽投稿については、名誉毀損として立件できる可能性があります。ただ、アカウントの特定には時間がかかります」
「大西浩子という人物が怪しいんですが」
「以前の警告記録はあります。ただ断定はできないので、引き続き証拠を保全しておいてください」
電話を切った後、渉は部屋に座り込んだまま、しばらく動けなかった。
怒りたかった。でも誰に怒りをぶつければいいかわからなかった。泣きたかった。でも涙が出なかった。出尽くしてしまったのか、もう自分の体に残っていないのか、よくわからなかった。
(また、全部なくなった)
子供の頃から、ずっとそうだった。家族も、仕事も、お金も、居場所も。その手の中から、する、するっと、すべてが抜け落ちていく。自分の手は、何かを掴むためにはついていないのか、と思った。
渉は翌日、浩子のアカウントに直接メッセージを送った。
『これ以上続けるなら、法的手続きを取ります』
既読がついた。返信はなかった。
しかしその夜、また別のアカウントから渉のSNSにメッセージが届いた。
『傷つけるつもりはなかった。でも、あなたが無視するから。私がどれだけ苦しかったかわかる?』
渉はそのメッセージを保存した。スクリーンショットを撮った。警察に送った。
そして、スマートフォンの電源を切った。電源ボタンを長押しした指が、自分のものではないみたいに重かった。
窓の外で犬が一度だけ鳴いた。それが、その夜、渉が聞いた唯一の生きものの声だった。