【前回の記事を読む】店の前に、あの女性客が立っていた。彼女は僕を見つけるとゆっくり両手を広げて…「私、ここにいるから」と微笑みながら近寄ってきて…

2.

工場での仕事は、単調だった。

毎朝6時に家を出て、電車を乗り継いで1時間かけて通った。ベルトコンベアの前に立って、流れてくる商品を仕分けする仕事だった。会話はほとんどない。機械の音だけが響き続けた。

体は動かしているのに、頭は止まっていた。

(これが、俺の人生か)

そう思うと、何かが胸の奥でずうんと沈んだ。でも沈んでいる暇はなかった。沈んでいたら、家賃が払えなくなる。

1か月が経った。給料が振り込まれた。手取りで142,000円だった。家賃を払うと、残りは77,000円だった。食費を削った。昼は近くのコンビニで一番安いおにぎりを1個だけ買った。夜は自炊した。もやしと卵を交互に食べた。

体が重かった。頭が回らなかった。同じラインに立っている年配の男性が、休憩時間に「兄ちゃん、最近顔色悪いぞ」と声をかけてくれた。渉は「大丈夫です」と答えた。それ以上、誰にも頼れる気がしなかった。

浩子からの接触は、Lunaを辞めてからぴたりと止んでいた。店がなくなれば探しようがない。渉はそう思っていた。

それが甘かった。