浩子からのLINEが届いたのは、翌日の朝だった。
店を通じてではなく、個人のスマートフォンに直接だった。個人の連絡先を教えた覚えはなかった。
『昨日はすみませんでした。でも、ワタルさんのことが頭から離れません。お茶だけでも』
渉は返信しなかった。2日後、また来た。3日後も。
『どうして返事をくれないんですか』
『私のことなんて、どうでもいいんですよね』
文面の温度が、日を追うごとに変わっていった。丁寧な敬語が、少しずつ崩れていく。お願いが、責める言葉に変わっていく。スマートフォンに名前が表示されるたびに、渉の指先がこわばった。
渉はオーナーに相談した。オーナーは面倒くさそうに、渉を一瞥した。
「お前、客に気を持たせるようなこと、したんじゃないのか」
「していません」
「どうだか。とにかく、店に迷惑かけるなよ」
それだけだった。味方は、ここにもいなかった。渉は「すみません」と頭を下げた。自分が悪いわけでもないのに、頭を下げることに、渉はもう慣れていた。
次の予約日、渉は浩子に直接告げた。
「申し訳ございませんが、プライベートでのやりとりはお断りしています」と。
浩子は「わかりました」と言い、その日の施術へと移った。
施術台に横たわった浩子は、いつもより体が固かった。
仰向けになってもらうと、浩子の顔がすでに上気していた。渉は胸元にそっとオイルを広げ、鎖骨の下をゆっくりとなぞった。浩子の体が小さく震えた。
「……大丈夫ですか」
「うん、気持ちいい……。続けて」
次回更新は9月17日(木)、22時の予定です。
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