葬儀の帰り、絵里子は喪服のまま渉を見て、初めて、本当の顔をした。

「これで、もう我慢する必要はないわ」

にこりとも笑っていなかった。16歳の渉に向かって、40代の女が、ただ静かに告げた。

父が死んでから、絵里子は遠慮というものを完全に捨てた。

食事の場面が、一番つらかった。

絵里子と悠斗の夕食は毎晩きちんと用意された。唐揚げ、肉じゃが、ハンバーグ。湯気が立っていて、油の匂いが食卓に広がる。渉の前に置かれるのは、ごはんと、薄い味噌汁、漬物だけだった。

「これだけあれば十分でしょ」

絵里子はそう言った。悠斗の皿に唐揚げを追加で乗せながら、渉のほうは見ずに。

ある夜、悠斗が皿に残した唐揚げを、絵里子は渉の前にぐっと押し出した。

「これも食べていいわよ。ありがたく食べなさい」

4歳の悠斗が、ぼろぼろにかじって食べ残した、骨ばかりの唐揚げだった。骨の周りに、悠斗の歯型が残っていた。渉は黙って箸でつまんだ。脂と唾液の匂いがした。それでも、お腹は空いていた。空きすぎて、その骨にしゃぶりつかないと、震えが止まらなかった。

やがて、絵里子は渉を食卓に座らせなくなった。

「あんたが座ってると、悠斗が落ち着かないの。あっちで食べて」

渉の茶碗と味噌汁は、台所の隅の床に置かれるようになった。三和土に近い、冷たいタイルの上。渉はそこにしゃがんで、食卓の笑い声を聞きながら、ごはんを口に運んだ。犬みたいだ、と思った。でも犬なら、頭くらい撫でてもらえる。

次に変わったのは、部屋だった。