渉は父の手を振り払った。

「触るな」

「渉——」

「お父さんのせいだ」

声が震えた。涙で視界がぼやけた。それでも渉は父を見据えた。

「お父さんのせいで、お母さんは死んだんだ」

斎場が静まり返った。父の顔が歪んだ。泣いていた。でも渉には、その涙がどうしても本物に見えなかった。

母方の親戚のおばさんが、渉をそっと抱き寄せた。「渉くん、わかってる、わかってるよ」と耳元で言いながら。渉はおばさんの胸の中で、ただ泣き続けた。

葬儀が終わってから、渉は母方の祖父母の家に引き取られた。父方に渡されることを、母の両親が断固として拒んだのだ。「明子の子供をあの男には渡せない」と祖父が言ったと、後から聞いた。

でも祖父母も高齢で、小学生の渉を長く育てる体力はなかった。半年が経った頃、父が迎えに来た。

渉は父の車に乗った。窓の外を流れる景色を、ずっと見ていた。父は何も言わなかった。渉も何も言わなかった。

それから1年が経った秋の夜、父がリビングに来て、渉の向かいに座った。

「渉、少し話がある。お父さん、また結婚することになった」

その言葉が耳に届いた瞬間、渉の体の中で、何かが音もなく固まった。

 

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