そして、受信ボックスから、美代子の名前のメールを開いた。
美代子の顔から、色が、すっと引いた。
「明子、これは……」
母は何も言わなかった。ただ、美代子の目を見ていた。
「いつから」
ようやく、母が言った。
「……ごめんなさい」
それが、美代子の答えだった。聞き直す必要が、もうなかった。
渉は台所のドアの隙間から、その様子を見ていた。
母の手は、テーブルの上で握りしめられていた。美代子の手は、お茶のカップを持ったまま、震えていた。
お母さんも震えているけど、美代子のほうがもっと震えている。
それが、何を意味するか、8歳の渉でも、わかってしまった。嘘をついているほうが、いつだって、もっと震える。お父さんと美代子は、お母さんに隠れて、2人で何かをしている。それが、お母さんを、こんな顔にさせるくらい、悪いことなのだ。
美代子はお茶のカップを置こうとしたが、手が震えてお茶をこぼしてしまった。驚いた彼女は、思わず立ち上がった。
「あ、ごめん……」
「帰って」
低い声だった。震えてはいなかった。震えるよりもっと、ずっと低い声だった。あんな母の声を、渉は聞いたことがなかった。
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