翌週、早速母をこのサ高住に連れていき、母はホーム長と面談した。
毎日何をしているのか、食事はどうしているのか、など簡単な質問を繰り返していく。
母は気丈に振る舞う素振りを見せながら、先ほどした同じ質問に対して少しずつ違った回答をする。
私たちだったらこのあたりから徐々に不穏な空気を醸し出してしまい、それが母に伝わり母を苛立たせるだけの結果になるだろう。
一方、ホーム長はやんわりと優しく包み込むように接している。
最終的にはホーム長の「毎日の食事、大変でしたね」という労いの言葉に対し、母は「……はい。大変でした」と私たちには一度も見せたことがないしおらしい態度を見せた。
これが介護のプロなのだと思い知らされた。
ホーム長の「ここでは朝昼晩と三食出ますから、安心してくださいね」という言葉で面談が終わった。
結果は、認知症は進んでいるが受け答えはできるし体はまだまだ丈夫、ここで生活できる水準であるとのことだ。一番の懸念は、母が外出時にスタッフに声掛けするルールを守れるかどうかだった。
その後、母と入居予定の部屋を一緒に見た後、サ高住近くの商店街に連れて行った。
商店街の中を歩き始めると、母が何も言わずに急にふらっと婦人服の店に入っていった。驚いた私たちは店の外から母の様子をうかがった。母は店主に声をかけられても適当に相槌を打った様子で店から出てきた。
妻がすぐさま明るめのトーンで話しかける。
「気になる洋服でもあった?」
妻は少し興奮気味だ。
「前にこの店に来たことがあるのよ」
平然と応える母。
「え? そうなの? 自転車で来てたの?」
「うん。でも結構前よ。最近は来てない」
「じゃあ、この商店街は知ってたんだ!!」
「ええ、知ってるわよ」
これまでは私たちの後ろに付いてくるように歩いていた母だが、いつの間にか母が先頭を歩く。私たちは、母がこの町で生活できるかを確かめるように、喜びを噛みしめながら、少し離れて母の後ろ姿を追っていった。