一〇月一日から始まる国慶節のテレビは反日一色で染まった。一週間の休日。西部報道(せいぶほうどう)という局は、蒋介石軍と日本軍が戦った丘を紹介し、そこにたくさん転がっている戦死者の墓をちゃんと立てて階級を映し出してこのように解説した。

上等兵、伍長、一等兵、これらは旧日本陸軍の階級だが蒋介石軍もそれを使っていた。連合国の飛行機が軍事物資を投下し、志願兵も船でやって来た。その映像。反日戦争にはこういうもんもあったんや、共産党だけがやったのではない。

ミュージカルが始まった。銃弾に当たって戦死するとあの世で再び軍が組織されてこの世に送り返される。蒋介石軍の先頭に立って突撃した。面白くない三時間番組だった。

非公式の検問をすっぱ抜いたのもこのテレビ局だ。

中南海の逆鱗に触れて潰されるなと思った。見納めだ。最後まで我慢した。案の定、西部報道は突然消えた。わずかこれだけの理由で西部報道の肩を持つ気はないけどね。

さて、イリの親分が差し向けてくれた護衛(ご当地のジンチャーに顔のきく人)は話してみると気楽な人だった。

「どないにでもなりまんがな」

「まっかしときなはれ」

有名大学を出ているらしい。

全部揃っていた。その上、ガソリンも満タン。すぐに試乗したいだろうから。

イリの親分は二〇〇万円しか受け取らない。

「最初に決めた値段じゃないか。それ以上はもらうわけにはいかんよ」

端(はな)から儲ける気なんかない。困った。借りは借りだ。

忙しいイリの親分と別れて、慣らし運転で天池に行った。トラドとミランダの練習も兼ねる。

左側通行の国は日本、香港、インド、イギリス、オーストラリア。右側通行の国は中国、スペイン、フランス、ドイツ、アメリカ。ウルムチから一〇〇キロ、片道一車線の舗装路が天山山脈に入ると、トウヒ林の中を縫って走っていた。葉っぱは杉に似ていて、樅(もみ)の木のような枝の張り方。建築材として高く売れる。

一抱えもある太い幹のトウヒが適度な間隔で生えていた。まるで手入れの行き届いた日本の杉林。白っぽいサクサクの土、黄土状堆積物というのらしい。霜柱を踏んで歩いた冬の朝を連想する。

トウヒ林の中に匂いがない。おかしい。生態系のハーモニー、林とか森の匂いが大好きなのに。体調が悪いから匂いが分からないんだ。残念。

天池に到着。海抜二〇〇〇メートルの氷河湖。奥行きが五キロあって、周遊道路がないため水は透明で、ずっと奥の湖面には、氷河を抱いた五〇〇〇メートル級の天山山脈が映っている。