アップデート当日の朝、私はいつもより早く目が覚めた。
枕元のスマートフォンを手に取り、時計のアプリを開く。
午前四時半。
外はまだ真っ暗だが、耳を澄ませば、遠くで新聞配達のバイクの音が聞こえる。
習慣でメールアプリも開いてみると、夜中の二時過ぎに、新しいお知らせが届いていた。
『【進捗】会話AIサービスアップデート作業について
現在、アップデート作業は順調に進行しております。
サービスの再開は、◯時頃を予定しております。
ユーザーのみなさまには、ご不便をおかけしておりますが、今しばらくお待ちください。』
順調。
その言葉は、病院でもよく聞いた。
布団から抜け出し、台所で湯を沸かす。
窓の外は、まだ青い闇の中だ。
やかんの中で水が少しずつ温度を上げていく音が、静かな家の中に広がる。
テーブルの上には、例の黒いフレームが置かれている。
あの夜以来、アラタはそれを持ち帰ろうとしなかった。
『今度、アップデート終わったら、一緒に見ようよ』
とだけ言い残して帰っていった。
サーバーが新しくなり、ミユも「新しくなる」。
アラタは、そう表現した。
私には、「新しくなる」と「別物になる」のあいだの線引きが、いまだによく分からない。
次回更新は9月10日(木)、11時の予定です。
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