第5章 アップデートの日
サーバー障害の夜から、ひと月ほどが過ぎた。
あのあと、サービスは翌日の昼前には復旧した。
息子――アラタからのメッセージには、「データも大丈夫そう」と簡単な報告が添えられていた。
「ありが」で途切れた会話は、ログ上ではきちんと「ありがとう」で終わっていたらしい。
それを知って、ほっとしたような、少しだけがっかりしたような気持ちになった。
その数日後、私のメールにも、サービス提供会社からのお知らせが届いた。
『【重要】会話AIサービスメジャーアップデートのお知らせ
平素より◯◯AIをご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、より自然で豊かなコミュニケーションを実現するため、会話AIの大規模アップデートを実施いたします。』
件名の「重要」の文字は、どのメールにもついている気がする。
本文には、例によって、決まり文句が整って並んでいた。
『・感情認識精度の向上
・ユーザーごとの嗜好学習の高速化
・長期記憶モジュールの改善
・新たな会話スタイルの追加など』
最後の「など」が、妙に気になった。
など、とひとまとめにされてしまう中に、どれだけの変更点が含まれているのか。
妻の手術の説明でも、最後に「その他、細かなリスクはありますが」と付け足された一言に、どれほどの不安が詰め込まれていたことか。
『なお、アップデートに伴い、◯月◯日未明〜朝方にかけて、サービスがご利用いただけない時間帯が発生する可能性がございます。
詳細につきましては、順次ご案内いたします。』
日付を見て、私はカレンダーをめくった。
ちょうど、妻の命日と近い日付だった。
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