【前回記事を読む】妹が危篤状態だと伝えると「どうせ死ぬ人間に会いに行ってどうするの」…何かがプツンと切れた。傍にあった灰皿を振り上げ、頭めがけて…
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神木奏馬を聴取した次の日、城東警察署では複数の仕事が同時に進んだ。
鑑識課の松下鑑識課長は意気揚々と課員を連れてライブハウスに行った。暴対課の菊池凛刑事は朝食を2回食べた後、呆れかえる捜査員を連れて桜手芸能事務所に向かった。
社長の清水智哉が逮捕された後、ライブハウスは休業状態のためスタッフの聞き取りをするにはスタッフの家に行かねばならず、奥田巡査長と地域課の面々、それに数名の警官が手分けして向かってくれた。
俺と片倉は神木奏馬の2日目の聴取を行っていた。既に事件発生時の聴取は昨日終えているため、今日は主に事件後の行動についてだった。神木奏馬の話によると、久保京子殺害の後、桜手芸能事務所の社長から逃げるように言われたとのことだった。
だが神木奏馬は天涯孤独であり、妹のこともあって逃げようとは思わなかった。アパートの部屋で妹に申し訳ない気持ちと、人を殺してしまった悔恨の念に駆られ、逮捕までの間食事も摂らずに泣き続けたと言う。
実際、俺が神木の部屋に行った時、神木は目の周りに隈を作り泣きはらした目をしていた。部屋の中にスポーツバッグが置いてあったのは、おそらく身の回りの物を詰めていたのだろう。自首したわけではないが、逃げずに自室で悔恨の涙を流していたことは今後、神木に有利になるのではないか?
神木奏馬の妹は区の共同墓地に埋葬された。両親と死に別れた後、施設で職員から何年にも渡って性的虐待を受け続け心に深い傷を負いながらも、兄と水入らずで過ごした日々がせめてもの慰めであればいい。看護師になりたいという夢を持つことができたことも、かけがえのない希望であることは確かだったと思わずにはいられない。