第三章 なれそめ

父さんは毎夜のように酒を飲むと、私たち子どもに自分の生い立ちを語った。

父さんの実家は徳島県のはずれにある田舎の小さな町にある。元々の兼重家は神戸が地元で昔は刀鍛冶の家だったが、一家は第二次世界大戦の終盤に疎開をして徳島の田舎町へ移住してきた。

この町は兼重の人々にとって頼れる相手もいない土地で、夫婦は手始めにたった数頭の乳牛を飼って細々と酪農を営み、時には他所の家の手伝いなどで駄賃をもらい、貧しい暮らしの中でもどうにか生計を立てて、男五人、女二人の全部で七人の子どもを育てていた。父さんは七人兄弟の長男だった。

担任の山口先生は、勉強熱心なのに貧乏で辞書や教科書を買ってもらえない父さんに、何冊も辞書や本をくれた。喜んだ父さんはもらった辞書の英単語をAからZまで全て丸暗記してみせて、先生を何度も驚かせたという。 

「兼重君は非常に成績が優秀です。県立徳島工業高校もきっとトップで合格できるので、ぜひとも進学をさせてやってほしいです。入試の成績が一番だと奨学金が貰えるので、金銭的なご負担はありません」

自宅を訪ねてきた山口先生は、父さんの高校進学を許してあげてほしいと両親に説得を試みた。しかし、じいちゃんは渋い顔。進学なんてとんでもない。長男の父さんを中学で卒業させたら神戸のうどん屋へ丁稚に出し、二年分の給金を前借りして、牛をもう一頭増やすつもりだったのだから。

だからじいちゃんは山口先生からどんなに頼まれても、なかなか首を縦には振らない。しかし山口先生も一歩も譲らずに土下座で頭を畳にこすりつけたまま、こう繰り返した。

「何とか! 彼を進学させてやっていただきたい! 勉強熱心な子です! 勉強をさせてやってください! お願いします!」 山口先生がなんとしても頼みを聞いてもらうまで動く気がないことに根負けをし、じいちゃんは渋々ながら応じた。

「一番の成績で合格できたら高校へ行ってもいい。二番ではダメだ」

〈じいちゃん、あなたがそんなことを言うから、あなたの孫はこれと同じことを父さんから言われて育ったのですよ。“一番じゃなきゃダメだ、二番は認めない”ってね〉

 

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