醸はケイジから出されて、診察台に乗せられた。傷口の周囲はバリカンで毛が剃られ、縫ったあとが痛々しい。
抱っこしようとすると、傷口からたらたらっと、血が流れ落ちた。
「ややっ、これは」
年配の先生は顔色を変えて、慌てて脱脂綿をあて、消毒して軟膏を塗った。家に連れ帰って、定番のストーブの前に寝かせてやると、ようやく醸の目に輝きが戻ってきた。ごはんをやるとお腹が減っていたらしく、ゆっくり美味しそうに食べた。
隣で同じ食事に、旺盛な食欲でがっついている弟犬に、
「あいかわらずおまえは行儀が悪いな」とでも言うように、一瞥をくれる。
傷口が広がるといけないので、醸はその夜はケイジに寝かせることにした。
翌日、醸は朝の食事は美味しそうに食べたのに、夕方になるとまた熱が出たようでぐっひとくちたりしている。フードを一口も食べようとしない。
獣医さんに電話をすると、すぐ連れてくれば、解熱剤の注射を打ってくれるという。
さっそく連れて行くと、注射を一本。醸は注射されるがままおとなしくしていた。
熱は下がったようで、翌日の朝には元気をとり戻した。
週末の土曜日は、予約のバスがたくさん入っていた。
午前中に四台、午後に三台。さあ、稼がなくちゃ。今日は天気もいいし、紅葉シーズン真っただ中。お客さまも景色に酔い、試飲を楽しみ、お土産もたっぷり買って帰ってほしい。
忙しい合間を縫って、時々醸の様子を見に行こう。 自宅と会社の事務所は、歩いて五十歩ぐらい。だから、頻繁に醸の様子を見ることができる。
朝、醸は食事を残した。
また熱が出たようで、ぐったりとしている。とはいえ、観光客を放っておくわけにもいかず、そうっとケイジに寝かしておくことしかできない。
とりあえず午前中のバス四台を何とか捌いて、午後一時過ぎにようやく昼食にありついた。
醸の様子を見ると、苦しそうに横になっている。