さつきは、佳代から溢れる不思議な空気感に興味を持ち始めていた。

「渡瀬さんがよろしければ、お仕事をさせてください。普通の奥様とはちょっと違って、頼もしいです」

佳代は声を出して笑い出した。すると、さつきも釣られるように笑った。佳代は勢いよく右手を出した。その手をさつきはしっかりと握りしめた。

「さつきさんからも合格を出していただきありがとうございます。それでは、仕事の説明をします。さつきさんには看護師としての業務と、ヘルパーの仕事と、娘の代行の一人三役をお願いします。

このシナリオが終わるまでは情報を外部に漏らしたくないので、自由行動を制限させてもらいます。守秘義務は現時点から始まります。それなりの報酬は支払わせていただきます。

法規上、グレイの部分はあるかもしれませんが、違法行為はないと考えています。万が一問題が発生した場合、さつきさんのことは私が守ります」

佳代は弾むように話し始めた。さつきは目を輝かせている。

「このシナリオとは、一言でいうと逃避行です。病院で治療を終えた90才の主人を自宅に連れて帰りたいと言ったら、88才の私に在宅療養での看取りは無理と言われ、転院が決まりました。私は強硬手段に出ることにしました。

主人が現在入院している病院から次の病院に転院する時に、次の病院をキャンセルして、2泊 3日ホテルに隠れます。

3日後の朝10時30分にホテルを出て自宅に帰ります。自宅で主人の看取りの準備をしますので、いろいろ教えてください。午後4時に解雇となります。3日間、寝食を共にしていただきます。

シナリオ開始日の朝9時、先にホテルに行ってください。部屋に通すように言っておきます。部屋の中にある段ボールを開けて、その中に指示書があるので、それに従って用意を始めてください。さつきさんは続き部屋を使ってください。

私と主人と運転手は10時50分頃部屋に到着します。昼ご飯は室内にて四人でいただきます。運転手さんも午後 2時まで拘束します。主人の余命はあと1〜2週間と言われています。残り2週間を自宅という天国で過ごせるかどうかの瀬戸際です。失敗できません。協力してくださいますね?」

さつきは佳代の話に何度も大きくうなずきながら、佳代の恐るべき行動力に敬服していた。

「私がどれほど役に立つか分かりませんが、私の3日間は渡瀬さんに差し上げます。自由に私を使ってください。必ず成功させましょう」

さつきの気持ちは高揚していた。今度はさつきから勢いよく右手を差し出した。

佳代はその手を両手で握りしめた。

在宅訪問医は友人の医師に紹介してもらった。これで万全である。

 

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