【前回の記事を読む】小さい頃、川や田んぼでよく遊んでいた…ある日、虫に酷く刺された傷口に「ヒル」を近づけて、血を吸わせて……
第八話 悪漢探偵と杉鉄砲
黄色い花粉で周辺が黄色くなる時期、杉の実(雄花)も肥えてくる。この熟した形(なり)のいい実を弾として、「杉鉄砲」が流行った。
「止まれ! 撃つぞ!」と言って相手に向けて撃つ。ブチッ(ポン)!と音をたてて弾が飛び出る。小さな竹筒の先からは杉の実の飛沫が煙のように上っていた。やった! やられた! ……これがまたなんともいえない快感であった。ケンのやられ方、倒れ方は特に抜群であった。
「杉鉄砲」は、まず自転車屋から車輪の芯棒をもらってくるところから始まる。
そして山にゆき、芯棒の太さの孔をした細い篠竹を何本か切ってくる。
次に杉鉄砲作り。銃身と柄に分け、柄には銃身の長さ(8~12cmほど)に合わせて切った先の芯棒を入れる(銃身の長さ─芯棒より弾一つ分だけ長く。それに芯棒が入る孔の直径が、ぴちっと飛ぶ太さかどうかが勝負どころ)。この芯棒付きの柄と銃身ができれば杉鉄砲は完成。
杉鉄砲はいわば空気銃。まずひと粒(先弾)を穴(筒)に込め(装填)。先端にまで押しやる(先端から入れてもいい)。次にもうひとつの弾(後弾)を装填し、敵に向かってぐっと押せば、先に入れた弾が圧縮空気(空気圧)によって飛び出す。おおよそ5〜6mくらいは飛ぶ。
さあ銃撃戦の始まり。長さの異なった杉鉄砲を何本か揃え、それぞれに杉の実の弾を詰め込んでポケットに入れ、連射の準備をしておく。これらを撃ち終わると、今度はポケットに入れておいた弾を口の中に入れ、口から弾をひと粒ずつ取り出しては鉄砲に詰めて(口は重宝な物入れ)、さらに銃撃戦を行う。
杉の弾は杉花粉にまみれているために、なんともいえない杉の味がするが、死ぬか生きるかの瀬戸際なので、そんなことを言ってはいられないのだ。
映画の銃撃戦さながらの撃ち合いが繰り広げられる。しかも映画のような団体戦ではない。自分以外は全てが敵。ケンは悪漢であり、探偵であるからである。したがって、前後左右に気を配って戦わなければならない。神経を360度に張りめぐらして戦いに挑む。
万が一、銃撃戦で弾にあたると、「やられた!」と言って、陣地に帰り、「生き還り柱(この柱に触ると再び生き返ることができる)」に触って生き返り、また戦場に出るのだ。
今でも、たわわに実った杉の実を見ると、「もったいない」「ああ、いい弾だなあ」などと、つい思ってしまう。
はるか昔に、そんな経験があってか、ケンはいまもって花粉症になったことがない?