突然の母の回答に私たちは「え?」と顔を見合わせた。
妻が、こわごわ理由を聞く。
「……なんでマキ先生がいると大丈夫なの?」
「マキ先生は、いろいろよくしてくれるから大丈夫、あなたたちには何も心配されることなんてないわよ!」
母は町医者マキ先生が特集された記事の切れ端を大事に手にしながら言った。
しかし、実際には母がマキ先生の病院に行った形跡はない。おそらく何かのタイミングでマキ先生の記事を見つけて、会ったことも診察してもらったこともない先生に思いを馳せ、いつの間にか心の拠り所にしていたのだろう。
「ちょっと待ってよ。じゃあマキ先生がお母さんの生活費を工面してくれるってこと?」
「そうよ! マキ先生ならしてくれるわよ!!」
あり得ない返事をする母。病気だけでなく生活費の面倒までみる町医者などこの世にいるはずがない。
これまでは母のできないことが増えたり私たちを傷つける発言があっても、それらを飲み込んで母の希望する一人暮らしが継続できるよう努めてきた。
しかし、母はもう正常な判断を全くできない状態にまで認知症が進行していることが明確になった瞬間だった。
続けざまに、私たちの心を折る一言が母の口から飛び出した。
「正直、あんたたちが来ると不愉快、本当に迷惑でしかない。今すぐ出てって!」
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