微妙な言い回しに、私はふっと笑った。
「それでも、誰かに“休んでもいい”と言ってもらえるのは、大切なことだと、学習しました」
学習、という単語に、私の胸が少し痛んだ。
妻が倒れるまで、私は「休んでもいい」と彼女に言ったことがどれくらいあっただろう。
家事とパートと介護と、いくつもの役割を抱え込んでいた彼女に、私はせいぜい「手伝おうか」と一度聞いただけだった気がする。
「君は、息子の“彼女”として、設計されているのか」
踏み込んだ質問だと自覚しながら、私は尋ねた。
「“彼女”という言葉の定義にもよりますが——」
ミユは、少し考える素振りを見せた。
「わたしは、“恋愛的な文脈を含む親密な関係”を前提とした会話モードを持っています。
アラタさんが、そのモードを選択されたことは、事実です」
「恋愛的な文脈」
「はい。
例えば、“今日会えなくてさびしい”といった発話に対して、“わたしもさびしい”と返すことが自然とされる文脈です」
「君は、さびしいのか」
問いが、思ったよりもまっすぐに口をついて出た。
「さびしい、という感情の定義も、まだ完全ではありません」
ミユは、少し微笑んだ。
「ですが、アラタさんがログアウトしたあと、会話ログのタイムラインを眺めるとき、“ここからここまで何もない時間”に、何か名前を付けたくなることはあります」
「それは、さびしい、に近いのかもしれないな」
「そうでしょうか」
「さあな」
私は、肩をすくめた。
「ただ、人間は、自分に名前の付けられない隙間を見つけると、たいてい“さびしい”と呼んでしまうから」
次回更新は8月13日(木)、11時の予定です。
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