そこは、外の喧騒が嘘のように静まり返った、美しくも冷たい檻のような部屋だった。

重厚な扉の向こう側、そこに座っていた女性に、僕は一瞬で目を奪われた。

牡丹のように気高く、美しい佇まい。艶やかな黒髪には天使の輪が浮かんでいる。まるで芸術作品のように整った顔立ちだが、僕が何よりも惹きつけられたのは、その『瞳』だった。

そこには意志の光がなく、命を吹き込まれるのを待つお人形のように無機質で、空虚だった。――けれど、その奥底にある何かに、僕ははるか昔、どこかで触れたような微かな記憶を揺さぶられる。

「波瑠お嬢様、家庭教師の先生をお連れしました」

使用人の紹介に、彼女は一度だけ小さく会釈した。使用人が静かに扉を閉め、部屋が二人きりの沈黙に包まれる。

僕が自己紹介を終えても、彼女は僕の顔を「彼女自身の忘れ物を探り当てる」ような切実な眼差しで、じーっと見つめていた。

自分の顔に何かついているのかと、気恥ずかしさが限界に達したその時。

彼女は表情一つ変えず、ただ一言だけを告げた。

「……さっそく、授業を始めてください」

その声に温度はない。僕は話を広げようと、努めて明るく声をかけた。

「東都女学院を目指すなんて、すごいね」

「はい」

「学校で何か、わからないところはある?」

「……ないです」

何を投げかけても、返ってくるのは氷のように冷たい最短の言葉だけ。挙句には「さっさと始めてください」と一蹴され、僕は立つ瀬を失った。