【前回記事を読む】貧困東大生が、手にした6000円を大事に持って向かった場所とは──友人の気遣いも断り、頑なに「自分で支払う」と…
一万円で君と会いたい
起 呪縛
「あはは! 噂通り、本当に面白い人だね」
「東屋さん、こいつにお金を渡そうとすると血相を変えて怒るんですよ! 『金は人を狂わせる魔力があるんだ!』って!」
仲間が僕を指差していじると、東屋さんはさらに大笑いし、僕の肩を叩いた。
「気に入ったよ。個人的にもう少し御幸くんと話したいな。LINE、交換しない?」
僕は驚きのあまり目を丸くした。横にいた友人が「こんな機会、二度とないぞ!」と
僕の肩を激しく叩く。
そうして、僕の質素な連絡先リストに『東屋晴翔』という輝かしい名前が追加された。
「また連絡するよ」
東屋さんはそれだけ言い残すと、颯爽と他のテーブルへと去っていった。結局、その夜彼が僕のところへ戻ってくることはなかった。
けれど、その日一日だけで、僕の連絡先リストはこれまでの人生で交換した数を優に上回った。
店長からもらった6000円を握りしめて飛び込んだこの『無意味な時間』は、僕の凍りついた世界を、少しずつ溶かし始めていた。
飲み会の数日後、東屋さんから『アルバイト先に行ってもいいか?』と連絡があった。僕はシフトを伝え、その日を緊張して待った。
約束の夜。東屋さんは教授と数人の仲間を連れて店に現れた。
「御幸くんの作る料理が絶品だと聞いてね。自信作を振る舞ってほしい」
幼い頃の屋台から数え、中学生からはキッチンの主として働いてきた。料理には自負がある。
僕が鉄板に向かい、パンケーキのような厚みの中に旨みを凝縮させた特製のお好み焼きを人数分焼き上げると、その手際の良さに一同が感嘆の声を漏らした。
「……こんな美味しいお好み焼き、食べたことない!」
一口食べた仲間たちが、目を丸くして次々に声を上げる。
「相当な回数、作り続けてきただろう?」
東屋さんのその一言で、場の空気が変わった。