承 邂逅
「誰かを笑顔にさせてあげられる人になりなさい」
「困っている人がいたら手を差し出してあげなさい」
「誰かのためにした行動はいつの日か巡り巡って自分に思いがけない幸せとなって帰ってくる。」
父が健在で、我が家がまだ裕福だった頃、母は魔法のような言葉を紡ぐ人だった。毎日が笑顔に溢れ、僕はそんな母のことが大好きだった。
家が傾き、生活が困窮してからも、僕は心のどこかで信じていた。いつか、あの頃の優しいお母さんに戻ってくれるはずだと。けれど、その願いが叶うことはなく、家庭団欒の記憶は夢の中にしか残らなかった。
今日は家庭教師の初日。
東屋さんから提示された契約書には時給一万円、月給にすると40万から60万という、これまでの僕の人生では見たこともない破格の数字が並んでいた。約束通り、僕は居酒屋と新聞配達の仕事を辞めた。
背負っていた荷物を下ろしたはずなのに、指定された住所へ向かう足取りは、かつてないほど重く、緊張に震えていた。
「……お城?」
辿り着いた場所に、僕は絶句した。
次回更新は8月4日(火)、20時の予定です。
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