【前回記事を読む】教授の親戚から「時給1万円」のバイトに誘われた大学生。契約書も提示され…だが、指定場所に着いて絶句した。そこは…
一万円で君と会いたい
承 邂逅
一つの家族が住むにはあまりに巨大な、東京ドームさえも収まりそうないぐらいの邸宅。自動で開く重厚な門を抜け、呆然と立ち尽くしていると一人の使用人が歩み寄ってきた。
「東屋晴翔さんのご紹介で参りました、平御幸です」
頭を下げる僕の心境は、ライオンの前に放り出されたうさぎそのものだった。
案内された城の中で僕を待っていたのは、美魔女と呼ぶに相応しい、けれど冷徹な眼差しを隠そうともしない女性――この家の主だった。
彼女は僕を見下ろすと、汚物でも追い払うかのように使用人へ手を振った。
「あなたが例の家庭教師? 名家・吾妻野宮(あずまのみや)の名に恥じぬよう、何としても娘を東都女学院高等学校に合格させなさい」
捨て台詞を残して去っていく彼女の背中を見送りながら、僕は既視感を覚えていた。
使用人が「お嬢様の受験のことで神経質になっているだけですから」とフォローを入れてくれたが、僕にはわかった。
自信に満ち溢れているように見えて、その実、何かに怯えているあの態度。それは、かつての僕の母が、壊れていく過程で見せていたものと同じだった。
本来、この仕事は東屋さんが受けるはずだったものだ。彼はそれを断り、僕を推薦した。当然、母親は猛反対したが、東屋さんの長時間の説得の末、渋々認められたのが『僕』という存在らしい。
この家において、僕の失敗は許されない。
「失礼します」
案内された重厚なドアを開け、僕は一礼して足を踏み入れた。