【前回記事を読む】家庭教師をしている女子生徒の話を友人にすると、「それ、恋してるね」と…全身の血が逆流した。必死に動揺を隠そうと…

一万円で君と会いたい

転 断罪

「……好きな人かは、わからないんですけど。聞いてくれますか?」

彼女が静かに語り始めたのは、遠い日の『迷子』の記憶だった。

泣いていた自分に、屋台でお好み焼きを食べさせてくれた男の子がいたこと。手を繋いで一緒に親を探してくれたこと。その人が今まで会った誰よりも温かくて、その人が「パンケーキを食べたい」と言ったから、いつか自分の手で作ってあげたくて、パティシエを夢見るようになったこと……。

胸の奥に、ぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。

彼女の初恋とも呼べるその思い出の中には僕の知らない『誰か』がいる。

「そっか。……その人に、会えるといいね」

悟られないよう、僕は精一杯の笑みを浮かべた。

「きっとその人は、波瑠さんにとって会うべき人だから。また会えるさ」

僕の言葉に、波瑠さんは霧が晴れたような顔で「はい!」と答えた。

――けれど、その直後だった。

僕の脳裏に、封印されていた古い記憶が鮮烈に蘇ったのは。

小学校の5、6年生の頃。親戚の伝手で屋台を借り、生活費のために必死にお好み焼きを焼いていたあの夏。

人混みの中で、白いワンピースを着て泣きじゃくっていた、妹と同じくらいの小さな女の子がいた。

「どうしたの?」