そう言って彼女は少し遠い目をしていた。その横顔に、僕は思わず問いかけていた。

「……恋をするって、具体的にどんなことなんですか?」

僕が真剣な顔で聞くと、看護師さんは一瞬驚いたような顔をしてから、お腹を抱えて大笑いした。

「ちょっと、からかわないでくださいよ」

「ごめんごめん! でもね、今の御幸くんの気持ち、そのままだと思うわよ」

彼女は笑い飛ばした後、優しく僕の目を見た。

「会える時間を楽しみにしていたり、会えなかったら少し寂しく感じたり。相手の些細な言動に、勝手にドキドキしちゃうような……。そういう積み重ねが、恋なのよ」

――会える時間を、楽しみにしている。

波瑠の部屋に向かうあの重かった足取りが、いつの間にか軽くなっていたことに気づく。

「若いっていいわね! 私もあの頃に戻りてー!」

急に丁寧な口調が崩れた彼女を見て、僕は堪えきれずに大笑いした。看護師さんのカラッとした言葉のおかげだろうか。

波瑠へのこの「特別な感情」を、無理に否定しなくてもいいのかもしれない。

そんなふうに、少しだけ自分の気持ちを整理できたような、晴れやかな心持ちで病室を後にした。

次回更新は9月8日(火)、20時の予定です。

 

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