放っておけなくて声をかけた。怯える彼女を泣き止ませたくて、僕は余った食材で『うさぎの形』をしたお好み焼きを作ってあげた。
『お兄ちゃんは、すごいコックさんだね』
満面の笑みでお好み焼きを頬張る彼女に、僕は「大きくなったらお祭りもできるようになるよ」と話し、指切りをした。
交番へ向かう道すがら、彼女は「いつも一人で食べているから、ご飯の味がわからない」と寂しげに笑った。僕が何気なく「パンケーキを食べてみたいな」と漏らすと、彼女は目を輝かせてこう言ったのだ。
『わかった。私が作ってあげる。だからまた、私が大きくなったら食べにおいで』
2度目の指切り。
迎えに来た両親の無機質で冷ややかな態度と、それに応じる彼女のどこか諦めたような横顔。
――あの時の、あの子だったのか。
彼女がずっと大切に抱えてきた夢の種を蒔いたのは、他の誰でもない、僕自身だった。波瑠の昔話を聞き終えた後、僕はしばらく言葉を失っていた。胸の奥が熱く、視界が滲みそうになるのを必死に堪える。
まさか、あの時のお嬢様が、目の前の彼女だったなんて。
「……そっか。そんなことがあるものだね」と1人ポツリと呟いた。
「……恋してるね?」
今度は、妹の入院先の看護師さんからだった。友人と同じセリフを、よりによってこの場所で言われるとは思わず、僕は心底驚いてしまった。
「……友人にも、同じことを言われました。そんなに顔に出ていますか?」
「あら、自覚なかったの? 御幸くん、イケメンだし優しいのに今まで浮いた話が一つもなかったから意外だなと思って」
看護師さんに『イケメン』なんて言われて、なんだか少しくすぐったいような気恥ずかしい感情が込み上げてくる。
「恋なんて、僕には無縁なものだと思っていましたから。何が『恋』なのか、自分でもよくわからなくて」
「御幸くんはまだ若いんだから、わからなくても大丈夫よ。これからたくさん経験して、学んでいけばいいんだから」