「何年くらいだ?」
「高校生から、3年ほどです……」
「嘘は良くないな」
東屋さんが鋭く、射抜くような圧を向けた。その眼差しに抗えず、僕は吸い込まれるように真実を漏らした。
「……実は小学生の頃からで、10年を超えています」
そこからだった。僕の心のダムが決壊したのは。
隠し通すつもりだった両親のこと。妹の入院費を払い続けている現実。母との約束のためだけに大学へ通う虚しさ。本当は友達と遊びたかったこと。
妹や母に対する、誰にも言えなかった薄暗い本音まで――僕は涙を流しながら、がんじがらめになっていた感情をすべて吐き出した。仲間たちも僕の言葉に静かに涙を流していた。
東屋さんは馬鹿にするどころか、すべてを聞き届けた上で僕を『平御幸』として受け入れてくれた。彼は教授と目を合わせると、立ち上がり僕にハンカチを差し出した。
「話してくれてありがとう。……平御幸くん、頼みたい仕事があるんだ」
東屋さんは、居住まいを正して言った。
「ある家の家庭教師をしてほしい。時給は一万円だ」
耳を疑った。一日働いて手に入るかどうかのお金を、たった1時間で?
「いいんですか? 僕なんかに、そんな大役……」
「誰よりも仲間に恵まれているお前に、頼みたいんだよ」
教授も東屋さんに続き、静かに僕を見つめた。僕が頷こうとすると、東屋さんがさらに付け加えた。
「ただし、今のアルバイトを辞めてこの仕事を専業にしてほしい」
息を呑んだ。お世話になった店長を裏切ることになる。
躊躇う僕の肩を、背後から温かい掌が掴んだ。いつの間にかそばに来ていた店長だった。
「家庭教師やりなよ。御幸くんがお金で苦労していることも、仲間想いなことも知ってる。その仕事は、君にしか務まらないよ。お店のことは何とかするからその子を助けてあげてくれないか?」
店長の声は少し弱々しかったが、言葉の節々には確かな力強さが宿っていた。
「……お願いします」
僕は東屋さんに向けて、深く、深く頭を下げた。