野球部出身の彼に、今のレギュラー争いも含め、チームスポーツの心身ともに与える好影響や野球の魅力の深さなどを聞いているうちに、以前よりも意気投合し気がつけばグランドの外で会う仲になっていた。
昇進して出張の多くなった健友と違い、家業の車の整備工場の専務である彼は、昼間の時間も空きやすかった。
息子も野球クラブに復活し、まだがちがちのレギュラーではないけれど、試合でヒットを打って白い歯を見せることが増えてきた。
自然の流れだったかもしれない。誘われるままに二人でお酒を飲んで夜を過ごした。ゆうたが2泊3日の校外学習の夜だ。健友の出張も重なった。
すっかり好きになってしまったと酔っている自分もいた。この頃綺麗になったと近所のママ友からもいわれて浮かれている自分もいた。
でもすべてが終わって隣で腕枕をされていた時、いつものように目を閉じた。
何も聞こえない。何の安らぎも感じない。
耳を澄ましていた。ずっと。
私には子守歌が必要だった。昔、彼がお母さんに歌ってもらっていたように、私こそ彼の子守歌が聞こえてなければ、よく眠れなくなっていたのだ。
自分が悪いのに涙が出た。我慢しようとずっと天井を見つめていたら、突然、10年も前の飲み会で、恵が最後にいった言葉が脳裏に浮かんだ。
「ほんとに寝癖って色々ね。今、思えばなんだか可愛いものもあるしね」
そういって慈しむような微笑みを見せたっけ。もしかして恵も健友と……とふと思えて胸がきゅうと締め付けられた。嫉妬心だ。
ああ、健友がもう一度私のために歌ってくれますように。そう祈って、ガバッとベッドから立ち上がった。
帰ろう。ばかな私。大切なものを忘れていたよ。また歌ってくれるだろうかこんな無様な私のために。
次回更新は8月27日(木)、20時の予定です。
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