【前回記事を読む】愛犬に「問題が起きたら対処する」という飼い主が急増…正しい関係性ができておらず、間違った愛情やしつけも多くみられ……

第1章 犬にトレーニングは必要なのか

犬の潜在能力を発揮するためのトレーニング

リードをつけて規律正しく基本の合図に従う服従訓練は古典的な手法ですが、屋外の実践活動に役立たせるための基本練習です。犬と人が共に活動するために編み出された文化のようなもので、安定した関係性を築くために重要な仕組みのひとつです。

結局、辛抱強くなければいけないのは、犬ではなく飼い主のほうです。練習の成果は犬の行動の変化だけでなく内面の成長として表れてきます。我慢強い飼い主には我慢強い犬が育つ、動物行動学の第一人者であるコンラート・ローレンツ博士も書いたとおり、やはり犬は飼い主に似るのです。

犬にとっての報酬とは犬が本来持っている潜在的な力を、生涯を通して発揮することですが、服従性は犬の能力のひとつとして人と犬を服従関係で結びつけます。

さらに、犬の他の潜在的能力を発揮する場所は、自然空間にあります。犬が山の中で美しい姿を見せてくれるのは、彼らの犬としての能力が開き続けている証拠です。

山でグループ活動を通して犬たちが知性や感性を使うときに、それは人でいうところの気持ちが良いとか心地よいといった、情動を伴った価値のあるものとして記憶されます。

今では、犬の生活を動物福祉の視点で考える時代になりましたが、その方向はエアコンを使った快適性やシャンプーを使った衛生面や食べ物を使った快楽性に向かっています。これは人類が快楽と快適を求める環境ではありますが、犬本来の性質から遠ざかる場であって、愛護ではあるが福祉とは言えません。

犬が適切な場所で排泄ができる環境や土や草に触れられる時間、風を感じながら日向ぼっこをする場所や時間はどのくらいありますか。犬は閉め切った部屋で、食べ物や洗剤のにおいに囲まれて過ごしてはいないでしょうか。

トレーニングクラスでは犬の視線に立つため、飼い主が入手したしつけの情報や手法を遠慮なく覆していくのは申し訳ないのですが、これが自分の役割だと割り切って率直に発言しています。

補足として、野良犬的で穏やかな性質を持つ犬が、日本古来の農村地区でたくさんの時間と空間を使ってゆったりと暮らすなら、特別な訓練は必要ありません。そこには、ゆっくりと流れる時間と空間と距離感を保てる仲間がいて、安定した関係性が自然と築けます。

人が利用するために繁殖した和洋を問わない純血種や、その末裔のミックス犬たちには教育が必要です。使役を目的として繁殖した純血種は、野生の犬よりも執着が強い特徴があり、管理すべきものを指定しないと飼い主が犬に管理されてしまうでしょう。