【前回の記事を読む】「僕たちはハーフなんだ」…父親が異なる兄妹に、母親はそう説明していた…しかもそれぞれの父親が誰なのか、母親自身も分からないようで…
ホームランとフォーマルハウト
三
「ここからは見えないけど、フォーマルハウトの周りには、幾つかの星が集まってるんだ」
「星が集まる?」
「うん。星同士が引力で結ばれて、連星系を作っているんだって」
相変わらず解説は難解だ。星が集まるって意味がわからない。あんなに大きなものがどうやって? 大人二人が眉間に皺を寄せて首を傾げていると、アツシくんがわかりやすく説明してくれた。要約するとこういうことらしい。
フォーマルハウトという星は、みなみのうお座にある一等星で、地球から比較的近い距離(光の速度で二十五年。充分遠いと思うのだけれど)にある恒星であり、年齢は約四億歳(これでも太陽よりもずっと若いそうだ)の、できて間もない星らしい。
ほぼ同時にできた星が近くに複数あって、気の遠くなるような年月をかけて、それらは、見えない糸で結ばれているみたいに回り合っているという。
おまけに、恒星を形づくる際に寄り集まっていたガスの名残が今もあって、それらは主星であるフォーマルハウトの周囲を取り巻いている。もしかしたらそのガスから、地球や火星のような惑星ができるのではないか、と世界中の天文学者が注目しているそうだ。
だから、フォーマルハウトはけっして独りぼっちではなく、重力という絆で結ばれた仲間がいる、ということらしい。
あまりにも壮大で理解を超えたスケールに、凡人の脳は追いつかない。水口さんも同様らしく、目を丸くして少年の話に聞き入っている。
「じゃあ、寂しい星と思っていたのは間違いだったってことか?」
熱弁を続けるアツシくんが言い淀む間を捉えて、水口さんが質問を挟んだ。
「うん、大間違い。ロケットでそこに行ったら、わりかし賑やかだと思うよ」
へえー、という顔で水口さんが感心する。
わたしはというと、感心を通り越してあっけに取られている。年端もいかない知識お化けの少年のために、ガラス製の自尊心が崩壊寸前だ。これまでお前は、いったい何を見て聞いて学んできたのだ、と第二第三の自分に問い詰められている気分になる。
「それにしてもすごいね、君って天文学者になれるんじゃない?」
これは本音だ。将来にビジョンを持たない薄っぺらな人間からすれば、子供というだけで未来は明るい。危機感を抱えた今の自分のままで子供に戻れたなら、きっと明確な将来設計に基づいた幼少期を全うするのに。
少年は、まんざらでもない顔で、鼻の下を指でゴシゴシとこすった。
「見えなくても、傍にいるんだな……」