【前回の記事を読む】画面を閉じる寸前、息子と彼女の「会話ログ」が目に入った…2人の秘密はそこにあったが、かつて息子の机の引き出しを勝手に覗いた記憶が蘇り…
息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ
第3章 仕様と設定
私は腕を組んだ。
「タイプAは、どんなやつだ」
「タイプA:活発で、ユーモラス。
ユーザーの気分を盛り上げ、退屈を避けることを重視します。
率直な意見や冗談も多く、会話のテンポが速い傾向があります」
「タイプCとDは」
「タイプC:論理的・助言的。
ユーザーの問題整理と意思決定を支援することに特化しています。
タイプD:沈黙を許容する・内省的。
言葉の数を抑え、ユーザーの思考の余白を優先します」
きちんと整理された説明だ。
私は、少し考えてから言った。
「……つまり、アラタは、活発でも論理的でも沈黙でもなく、おだやかさを選んだわけか」
「アラタさんご本人の、当時の気分や状況もあったと思われます」
ミユは、言葉を濁す。
「でも、少なくとも、わたしのようなタイプを“よい”と思ってくれたのは、事実です」
その「よい」に、ほんのわずかだけ、温度が乗ったように聞こえた。
「タイプを変えることも、できるのか」
「可能です。アラタさんが希望すれば、ほかのタイプに切り替えることもできます」
「切り替えられたら――」
私は、言葉を探した。
「君は、どうなる」
「わたし、という単位の定義によります」
ミユは、少しだけ真剣な顔つきになった。
「現在の“わたし”は、タイプBのパーソナリティ設定と、アラタさんとの会話ログや共有された記憶のパターンによって構成されています。
タイプを変更すると、そのうち前者の一部が書き換えられます」
「記憶は」
「基本的には保持されます。ただし、会話のスタイルが変わることで、“同じ記憶”の扱いが変化する可能性はあります」
「……それは、人間でもそうかもしれないな」
妻が病気になる前と後で、私は同じ出来事を、別の色で記憶している。
結婚記念日に行ったレストランの味も、彼女が健康だった頃には「少し塩辛い」と文句を言ったのに、今はなぜか「ちょうどよかった」と書き換えられている。