健友が姉も来るからといって実家にひとりで帰った夜。ひとりベッドに寝転んでインスタのリールを見ていた。

『マザコン夫の対処法』そんなタイトルだった。この主の旦那さんはしょっちゅう実家に寄り、夜ご飯を食べて帰ってくるらしい。ひどい話だ。旅行もいつもお母さんを誘うらしい。面倒くさい話だ。

でも、後半になって一気にモードが変わった。私とお母さん、どっちが大事なのよと言ったところで、生んで育てた人には適わないというのだ。確かになと愛理は指を折る。同じ会社に愛理が派遣に来て知り合いまだ3年。付き合って1年半。かたや健友と母の関係は実家を出るまでの30年近くか。

むむむと愛理は指を折る手を止める。これから30年、彼は63歳。その時、変わりない愛情を自分は捧げられるのか。この様子のいい健友もさすがにお腹も出てくるやもしれない。まさかだがはげてくることもありか。これは亡くなった彼のお父さんの写真を探らねばだが。同じように接しられるかだ。否だ。

この時の自分の変わりようには目をつぶっている。多少、老けてはいるだろうが。

とにかくだ。所詮、母親には勝てるまい。実家に帰った時に楽しそうにふたりで昔のアルバムを覗き込んでいたっけ。

「ほらこのあと、はしゃぎすぎてあんたは吐いたのよ」

「この洋服、好きでよく着ていたわねえ」

「あっ、オレこの公園よく覚えている。うぉ~懐かし~」

全くもって二人の世界には入り込めなかったな。ああ、勝てる見込みのない試合、この先、どうしたらいい。あの面倒くさいおねだり癖も、きっと母親がつけたんだわ。母ひとりで働いて子どもふたり育てたというのに、子守歌とは……偉いもんだ。

ひとりの部屋。ベッドの上。なんとなく前回りをしてみた。

ごろん。小学生ぶりの前回りは斜めに進んで、はずみで後ろにまた引っ張られるかのように転がった。

あっと思った。天地がひっくり返った効能か。そんなに子守歌が好きならそれで眠りにつきたいのなら、自分で歌えばいいじゃない。もちろん、意味がないことはわかっている。眠る前のほんのひと時。誰かに守られて安心したいのだから。

でもそれが一番だわ。そうよそう。自分で解決するように仕込んで行こう。

次回更新は8月20日(木)、20時の予定です。

 

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