無知な大人に教えを授けるように得意げに解説する。天文にはド素人のわたしは、少年の言っていることの半分も理解できない。

「さよう。間もなく内合だから、そのうち三日月みたいな姿になるぞ」

水口さんがすかさず補足の解説を加える。さらに意味不明だ。

「えー、僕見たい」

「日に日に形は変わっていくからな。見ているだけでも飽きないぞ」

「位置も低くなっていくんだよね」

「そうだ。あっという間だよ」

「あのー、おじさん」

「うん、何かな」

「その頃また来てもいい?」

「ああ、構わないよ。いつでも歓迎だ」

素人をそっちのけで、老人と少年の会話が弾む。ユカちゃんもキラキラ瞳で参加だ。解釈が追いつかず、目を点にして聞き役に徹していると、求めてもいないのに、無知なわたしと無垢なユカちゃんのためのダブルの解説が始まった。

彼らの話を自分なりに要約すると、概ね次のようなことらしい。

幾つかある惑星のうち、地球よりも太陽に近いところを回っているのが内惑星であり、金星と水星がそれに当たる。今は金星の観望好期になっていて、しばらくの間は西の夕空で輝いているという。

現在、軽く見上げる高さで光っている金星、別名宵の明星は、日を追ってその高度を下げていく(つまりそれは地球と太陽の間に入り込むということらしい)。

やがて太陽をかすめた(これが内合)金星は、しばらくののち、今度は明け方の空で輝くようになる(つまりこれが明けの明星)。だからあの星は朝夕にしか見えず、深夜の天頂で輝くことはない。

金星には空気があるらしい。主成分はCO2、つまり二酸化炭素。これは知っている。地球を温暖化させる悪の元凶として、世界中の国が排出を規制しているガスだ。

太陽に近く、温室効果ガスの影響もあって、金星の表面温度は四百度を超えるという。これは、より太陽に近い水星よりも高いそうだ。

「じゃあ、最近夜の十時くらいに、上に見える明るい星はなに?」と尋ねたら、「木星」というデュエットが返ってきた。

火星から向こうは外惑星だという。実にややこしい。

天文老人と天文少年の熱い講義は続く。ただ拝聴するうちに、専ら知識の開陳をするのはアツシくんの方で、水口さんは頷くことが多いのに気がついた。

アツシくんこそが根っからの天文ファンなのだろう。

「いやいや、これは楽しい。孫と話しているみたいだ。君は本当に星が好きなんだね」

「うん、大好き」

「星の知識はどうやって? お父さんがお好きなのかな?」

この質問にアツシくんはどう答えたものかと思案する様子だ。やがて彼は、普段の快活さとはほど遠い小声で、老人の問いに答えた。

「お父さんはいないよ。由香もそうさ。ママは一人だけど」

彼の言葉に大人の二人は首をひねる。文脈がちょっとおかしい。

次回更新は7月24日(金)、11時の予定です。

 

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