望遠鏡は天頂に向いていた。空はまだ薄明るく、鏡筒先には蓋もかぶせてあるから、星を見ていたわけではなさそうだ。
「覗いてみるかね?」
言うが早いか、準備してあった小振りな脚立を手にして望遠鏡へと歩いていく。子供たちは先を争って続いた。仕方がないので、腰を上げて彼らを追うことにする。
「ちょっと待っててくれ」
水口さんはそう言うと、大きな望遠鏡を軽々と操作して、筒先を西の空に向けた。
そこには、翳りゆく空に穿たれたピンホールのような、明るく輝く星が一つだけ見えていた。
「金星だね」
アツシくんの声に、微調整を続ける水口さんが満足そうに頷いた。
「うわ、まぶしいや」
脚立の中段に乗ったアツシくんが、接眼レンズを覗いて叫んだ。続いた妹のユカちゃんも、脚立の上段で感嘆のため息を漏らした。
「おねえさんも見てみなよ」
勧められて、脚立の一段目に足を乗せた。鏡筒に触れないようにして、恐る恐る接眼部にある直径一センチほどのレンズに目を近づけてみる。
視野の中心にある星は、網膜を焼くほどの光を放っていた。明るさもさることながら、真円ではないその形に思わず息をのんだ。
「月みたい、半分しかない!」
望遠鏡で見る金星は、丸くなかった。
「いつもこんな形してるの?」
わたしの感想が可笑しかったのか、アツシくんがケラケラと笑った。
「んなわけないじゃん。内惑星はね、月みたいに満ち欠けするんだよ。これから、どんどん細くなっていくよ」