「……試験運転だ」

誰に言い訳するともなく、そうつぶやいた。

洗濯物と、電気代と、減っていく調味料の在庫を管理するのと同じように、これはただの「確認作業」に過ぎないのだと、自分に言い聞かせる。

椅子に腰を下ろし、フレームを耳にかける。

視界が、薄い膜を一枚かぶせられたように変わった。

前回、アラタに案内されたときと同じように、ロゴと小さなアイコンが目の前に浮かぶ。

ただ、今回はアラタの声がない。

代わりに、無機質な音声が耳元に流れた。

『ユーザーBとしてログインしますか?』

女とも男ともつかない合成音だ。

少しだけ間延びしたその声に導かれて、視界の中央に「はい/いいえ」の選択肢が現れる。

私は、しばし黙って「はい」のほうを見つめた。

視線の位置を感知しているのか、「はい」の文字がわずかに膨らんで見え、周りの枠線が光る。

『ようこそ、アラタさんのお父さん』

名前を呼ばれて、少し肩が跳ねた。

前回、アラタの隣でフレームをかけたときに登録されたのだろう。

いったん登録されてしまえば、もう「はじめまして」の段階には戻れない。

『本日はどのモードをご利用になりますか』

視界の右側に、小さなパネルが現れる。

「コミュニケーション」「設定」「ヘルプ」と並んでいる。

私は、迷った末に「設定」の文字を見つめた。

日曜の昼間に、中年男が一人でAIの設定画面を開いているという事実に、妙な滑稽さを感じる。

だが、仕様も知らないまま会話を続けるのは、もっと落ち着かない。

クリックの代わりに、視線を少しずらして「プロフィール」の項目を選ぶ。

すぐに、シンプルな画面が目の前に展開した。