「それよそれ、まゆちゃんママ! 3組さんでいわれてるらしいの……あの人、万引きしたらしいわって」

思わず席を立ってしまった。

「や、やめて。ひどい。私、こう見えても真面目に生きてきたのよ」

「わかるよ。もちろん」

すると、けんとくんママも手を合わせた。

「ごめんね。私もちょうどあの時、子どもの習い事の送迎でロータリーに車を停めていて、店頭であなたとお巡りさんが話しているのを遠目に見ただけなのよ」

言葉が出なくなり、無意識のまま生チョコを口に含んでいた。洋酒のようなほのかな香りを感じた。胸が詰まった。だからかと思った。授業参観に向かった時の疎外感、いつもと違うママたちの視線。どうしよう。私はただ自転車を盗まれた被害者なのに。

確かにあの時の現場検証は異様に長かった。何時ごろ入って何時ごろお店を出たかに始まり、自転車の購入時期、なぜか普段の買い物ルートまで聞かれた。はあとため息が出る。

「気にしないで」

「私も誤解を解くようにみんなにいうから」

慰められて解散したけど、案外、噂の出所はけんとくんママかもしれないと思えてくる。

その夜、まゆりが寝てから夫に相談した。

「なんだそれ、ひどいな。被害者なのにさらに問題勃発かあ。ま、人の噂ほどいい加減なものはないからな」

同情してくれるものの、これといった解決策もくれず、いつのまにか高いびきが聞こえてきた。普段は疲れて寝つきのいいゆりえはとうとう2時くらいまで眠れなかった。

翌日、夕飯の買い物にまたスーパーに行った。もともと徒歩で5分くらいの歩ける距離なのだ。しかし、自転車が出てこない今は、あまりかさばるものは買わないようになっている。ネットスーパーで済ませればいいところだが、やはり外での買い物は本来なら息抜きになる。

さすがに心は重い。新たに自転車を購入しようかも迷うところだ。お巡りさんの話では盗難自転車の4割ほどは出てきているのだが、その時期も1週間後から半年後など様々で、なかにはサドルの部分が抜き取られていたり、傷つけられぼこぼこに曲がっていたり、パンクもよくあるそうだ。

次回更新は7月30日(木)、20時の予定です。

 

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