ペロピダスが、感謝の気持ちとともに重厚な大蛇を眺めていると、
「しばらくお待ちを。いま、ご主人さまに申し上げてまいりますから」
執事が小走りで主人の部屋へ駆け込もうとするので、ペロピダスは、その腕をそっととらえると、「かまわんよ」と小声で囁(ささや)いた。
「子供たちが来ているのだろう?」
ペロピダスは奥の方に目をやった。屋敷の奥から、懐かしい友人の張りのある声が響いてくる。近所の子供たちを相手に講義の最中のようだ。
「講義が終わるまで、中庭で待たせてもらうから」
「そうですか。では、おおせのとおりに」
老執事は、恭(うやうや)しげにペロピダスを中庭に案内した。エパミノンダスの家の中庭は、慎ましく手入れされていた。レモンの爽やかな香りと、小鳥のさえずり。瞼(まぶた)を閉じて深呼吸すると、心が穏やかになる。
(こんなに静かなのは、久しぶりだな)
長椅子の上に腰をおろし、もう一度、腹の底から深い息を吐いていると、急に、右手の甲にあたたかいものを感じ、ペロピダスはぎょっとして手をひっこめた。
見ると、一匹の老犬が彼の右手を嘗(な)めている。
「おや、スパルトイ。久しぶりだな」
それは、エパミノンダスの愛犬であった。ペロピダスのそばに来ると、老犬は旧友との再会が懐かしいのか、彼の足もとにゆっくり身を横たえた。
「元気だったか?」
ペロピダスが頭を撫でるとスパルトイは大きなあくびをし、気持ちよさげに目をつぶる。
「龍の牙から生まれた勇士も、いまは昼寝がお気に入りか」
ペロピダスは微笑した。
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