【前回の記事を読む】故郷を取り返すために、スパルタ軍の支配者を暗殺…「やっと自由になれる」。喜びも束の間——

第一章 テーバイの解放

「テーバイが解放されたとか言って、浮かれ騒いでいるものもいるが、亡命していた罪人たちが引き起こした反乱だぞ。まだ、スパルタの駐屯軍がカドメイアを占拠している。うかつに外へ出て、状況もわからぬうちから、やみくもに反逆者に同調したら、おれたちも反逆者と見なされて、スパルタ兵に虐殺されるぞ」

「はっきりしたことがわかるまで、家の中でおとなしくしているにかぎる」

などと言い、テーバイ人の多くは軽挙妄動を控えたのであった。

「思った以上に、市民たちの反応は冷淡だな」

「スパルタ軍がカドメイアに陣取っている。市民たちが外に出てこないのも無理はない」

ペロピダス、カロン、メロンら、同志の面々は、テーバイの人々が彼らの蜂起を受け入れていないことを肌身で感じ、愕然(がくぜん)とした。

「市民たちの後押しを得て、スパルタの総監や駐屯軍を圧倒するはずだったのに。これでは、我々は、ただの反逆者だ。フェレニコスの後発部隊が到着するのは、朝になってから。夜のうちにスパルタ軍に反撃されたら、まずいぞ」

カロンが不安を口にすると、ペロピダスも焦りを覚え、すぐには良策が浮かばない。

(はやく、次の手を打たないと……)

だが、焦るペロピダスは、駆けつけた市民の中に見知った懐かしい顔を見つけた瞬間、

「エパミノンダス!」

名を呼んで、駆け寄った。

端正な面ざし、力強いまなざし。忘れるはずがない。ペロピダスが親友のもとに走り寄ると、エパミノンダスは彼を温かく迎え、

「ゴルギダスとともに加勢に来た。友人や弟子たちも一緒だ。みんなで掩護(えんご)するぞ」

大勢の友人や弟子たちを、ペロピダスに引きあわせる。ペロピダスは屈託(くったく)なく笑うと、

「市民の大半は、まだ事態がよく呑みこめず、家に閉じこもっている。正直、心細くて、次の手も思いつかないほどだった。だが、エパミノンダスよ。きみが、友人たちを連れて駆けつけてくれたから百人力だ。とても嬉しいよ」

喜びを表明し、エパミノンダスの手を握りしめた。エパミノンダスも、ペロピダスの手をしっかり握り返すと、大丈夫だ、安心しろ、というように微笑し、

「ペロピダスよ。テーバイの人々に呼びかけて、家々に火を灯(とも)させ、篝火(かがりび)を焚(た)くんだ。炎は、夜目にもよく望めるはずだ。カドメイアにいるスパルタ兵も、無数の炎を目にすれば動揺をきたすはずだ」

「なるほど! 群集がひしめいていると錯覚すれば、相当な心理的脅威になるな」

ペロピダスは手を打つと、すぐさま同志や市民に指示して、家々や辻々、広場などに多くの篝火を掲げさせる。

カドメイアは小高い丘の上にあったから、テーバイ市内に星の数ほど掲げられた篝火は、カドメイアにいるスパルタの将兵たちの目にも入った。