【前回の記事を読む】まずい。もしや、同志たちの脱出を知らせてきたのでは――宴の席での策略の最中、アテネの急使が手紙を差し出して...

第一章 テーバイの解放

カロンたちがアルキアスを誅殺していたころ、ペロピダスの率いる一隊は、レオンティアデスの屋敷を取り囲んでいた。

「とにかく、この門さえ開けさせればよい。門が開いたら、一気に斬り込むぞ」

ペロピダスは同志一同に言い含めると、ドンドンと、勢いよく扉を叩(たた)き、

「夜分、申しわけない。アテネのカリストラトスさまのもとよりまいった、火急の使者です。カリストラトスさまの手紙を、至急、レオンティアデスさまに、お渡ししたい。どうか、レオンティアデスさまに、お取次ぎを!」

声を張りあげると、門番が、あたふたと起きてきて、

「これは、これは、ご苦労さまでございます。アテネのカリストラトスさまといえば、ご主人さまの古くからのご友人。すぐに門を開けますから、いましばらく、お待ちを」

などと、へりくだった言葉づかいで閂(かんぬき)を開ける。きしんだ音とともに扉が開くや、

「よしッ! いまだ、突っ込め!」

ペロピダスの号令とともに、同志たちは、いっせいに門の中になだれ込む。

「ひいいい!」

門番の悲鳴が夜闇に響きわたった。喚声をあげて、どかどかと押し寄せてきた闖入者(ちんにゅうしゃ)に、

「なにごとだ!」

館の主(あるじ)レオンティアデスは目を覚まし、剣を抱いて跳び起きる。こちらはアルキアスらとちがって酒など入っていない。豪放に剣を抜き放つや、乱入者たちを迎え撃った。もともと剛健な男だ。

決死の若武者数名を相手に、怯(ひる)まず渡りあい、次々に深手を負わせていく。同志のケフィソドロスが即座に斬り殺され、ペロピダスも、レオンティアデスの豪腕に斬りつけられて負傷した。

「きさまは、ペロピダス!」

夜半の闖入者たちのリーダーがペロピダスと知って、レオンティアデスは憎悪たっぷり、

「いつの間にテーバイに舞い戻った? こんなことをしでかして、ただですむと思っているのか。おれを殺したら、スパルタ王が黙ってはおらんぞ」

「スパルタ王は駆けつけられん。三年前とはちがうぞ」

「カドメイアにいるスパルタの駐屯軍を忘れたか? この町はスパルタ軍が占領しているんだ。夜明けを待たずに、きさまら全員、ひっとらえて縛り首にしてやる!」

「ほざくな、悪党!」

ペロピダスは叫ぶや剣をかまえ、レオンティアデス目がけ、突進した。が、室内は狭いうえに、ケフィソドロスの遺骸が邪魔になって足もとがおぼつかない。それでも苦痛をこらえ、悪戦苦闘の末に、ペロピダスはレオンティアデスにとどめを刺した。